減価償却資産の範囲
減価償却資産の範囲について説明します。所得税法と法人税法は、一定の資産については[減価]償却をすべきものと規定しています(所法2(1)19、法法2(1)23)。この[減価]償却をすべきものと定められている資産を「減価償却資産」といいます。減価償却資産を取得しても、その取得に要した金額(これを「取得価額」といいます)が取得時の必要経費や損金となるわけではありません。必要経費や損金となるのは「耐用年数」にわたり法令が定める「減価償却方法」に従って計算される金額です。この手続を減価償却といいます。本稿では、この減価償却の要素のうち、減価償却資産の範囲をとりあげます。
減価償却資産の範囲
減価償却資産の範囲は、所得税法や法人税法に定められています(所令6、法令13)。これらの法律は、減価償却資産をその償却方法の相違に応じて、建物、建物附属設備、機械装置、車両運搬具、工具器具備品などの種類に分けて規定しています。
減価償却の対象とならない資産
次の資産は減価償却の対象ではありません。
棚卸資産(所令6柱、法令13柱)
棚卸資産とは「棚卸をすべきもの」として定められている資産をいいます(所法2(1)16、法法2()20)。具体的には商品や製品のほか、貯蔵中の消耗品も棚卸資産に該当します(所令3、法令10)。国税庁は非常用に備蓄する食料品について「食料品は繰り返し使用するものではなく消耗品としての特性をもつ」ことを前提に「災害時用の非常食は備蓄することをもって事業の用に供したと認められる」として備蓄時の必要経費になるとの見解を公表しています(国税庁webサイト)。ある物品が棚卸資産である消耗品か減価償却資産である備品のいずれに該当するかの判断基準は「反復使用性」にあるようです。
事業の用に供していないもの(所法2(1)19、法令13柱 括弧)
減価償却費として各年分の必要経費に算入される金額は「事業の用に供した日」から年末までの期間について按分計算した金額です(所令132(1)、法令59(1))。事業の用に供したか否かの判断基準について、国税庁は、「業種・業態・その資産の構成及び使用の状況を総合的に勘案」するとしつつ、「事業の用に供した日とは、一般的にはその減価償却資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいいますので、例えば、機械等を購入した場合は、機械を工場内に搬入しただけでは事業の用に供したとはいえず、その機械を据え付け、試運転を完了し、製品等の生産を開始した日が事業の用に供した日となります。なお、事業の用に供した日とは、資産を物理的に使用し始めた日のみをいうのではなく、例えば、賃貸マンションの場合には、建物が完成し、現実の入居がなかった場合でも、入居募集を始めていれば、事業の用に供したものと考えられます」との見解を公表しています(国税庁webサイト)。なお、稼働休止中の資産については、維持補修が行われておりいつでも稼働し得る状態にある場合は、減価償却資産に該当するものと取り扱われています(所通2-16、法通7-1-3)。
時の経過によりその価値の減少しないもの(所令6柱 括弧、法令13柱 括弧)
例えば、(a)古美術品、出土品など歴史的価値または希少価値を有して代替性のないもの、(b)美術品等で取得価額が1点100万円以上であるもの(所通2-14、法通7-1-1)。固定資産のうち土地や電話加入権も時の経過により価値の減少しないものに該当しますが、この除外規定にかかわりなく、はじめから減価償却資産の範囲に含まれていません。
減価償却をすることなく一定額が必要経費や損金となるとされるもの
次に該当する資産については、法律上当然に、あるいは選択行為により減価償却をすることなく一定額が必要経費や損金となるとされています。
取得価額 | 必要経費になる金額 | その他 | |
少額の減価償却資産* | 10万円未満 | 取得価額の全額 | [個人]法律上当然に必要経費 [法人]損金経理により損金 (所令138、法令133) |
一括償却資産 | 10万円以上 20万円未満 |
取得価額の合計額 × 1/3 | [個人]選択により必要経費 [法人]損金経理により損金 [要件]明細書の添付 (所令139、法令134) |
少額減価償却資産 | 10万円以上 30万円未満 |
取得価額の全額 (合計300万円限度) |
[個人]選択により必要経費 [法人]損金経理により損金 [要件]青色申告者、中小事業者、明細書の添付 (措法28の2、67の5) |
* 使用可能期間が1年未満の減価償却資産も「少額の減価償却資産」に該当します。
上記の判定単位について、課税実務では「通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては、社会通念上一の効用を有すると認められる単位ごとに判定する」とされています(所通49-39、法通7-1-11および措通28の2-2も同旨)。複数の物品の取得価額を合算して判定する具体例として、国税庁は「例えば、応接セットの場合は、通常、テーブルと椅子が1組で取引されるものですから、1組で10万円未満になるかどうかを判定します。また、カーテンの場合は、1枚で機能するものではなく、一つの部屋で数枚が組み合わされて機能するものですから、部屋ごとにその合計額が10万円未満になるかどうかを判定します」との見解を公表しています(国税庁webサイト)。裁判例には、PHS事業者が取得したエントランス回線利用権(減価償却資産である電気通信施設利用権)が少額減価償却資産に該当するかどうかの判定単位は1回線ごとか全回線のいずれかが争われた事例で「減価償却資産は法人の事業に供され、その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるところ、… エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができる。そうすると、本件権利については、エントランス回線1回線に係る権利一つをもって、一つの減価償却資産とみるのが相当であるから、… 上記の権利一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきである」としたものがあります(最判H20.09.16 NTTドコモ事件)。
NTTドコモ事件 関連論文 エントランス回線使用権の少額減価償却資産の認定単位