税務上の書類保存義務 3 – 記載事項 –

本稿では、税務上の保存義務がある「書類」の記載事項について検討・整理します。

法人税法・所得税法における記載事項

請求権や領収書の記載事項について、法人税法と所得税法は、その保存義務を定めながらも、何ら規定を設けていません。先稿で述べたとおり、これらの法律では、ある費用の請求書や領収書の保存は、その費用を法人の損金または個人事業者の必要経費に算入する要件ではなく、これらは証拠資料の一つにすぎないものと位置づけられています。それ故に、法人税法と所得税法は記載事項を定めていないのでしょう。これに対して、請求書等の保存を仕入税額控除の要件としている消費税法は、請求権等の記載事項を法定しています。法人税法と所得税法でも、請求書や領収書の記載事項は規定されていませんが、請求書や領収書が証拠資料の一つとして強力であることは疑う余地がありません。取引実務では、法人税法や所得税法における損金や必要経費である費用の請求書や領収書の記載事項についても、消費税法の規定にならっておけばよいでしょう。

消費税法における記載事項

消費税法が請求書等の保存を仕入税額控除の要件としたのは「迅速かつ正確に、課税仕入れの存否を確認し、課税仕入れに係る適正な消費税額を把握するため」(静岡地判H14.12.13)といえます。この目的を達するに足りる事項が請求書等に記載されていなければ、その保存を仕入税額控除の要件とした意味がありません。それ故に、消費税法は記載事項を法定しているのでしょう。消費税法が規定する記載事項は、次のとおりです(消法30(9)①イ~ホ)。

① 書類の作成者名
② 課税資産の譲渡等の年月日
③ 課税資産の譲渡等の内容
④ 課税資産の譲渡等の対価額
⑤ 書類の交付を受ける事業者名

このうち②から④までは「課税仕入の存否を確認し、課税仕入に係る消費税額を把握するため」に不可欠な事項です。①については、再生資源卸売業者が受領する請求書等では不要とされ(消令49(2))、⑤については、小売業者や飲食業者が発行する請求書等では不要とされています(消令49(4))。

消費税法は請上記の①から④までに相当する事項を「帳簿」にも記載すべきものと規定しています(消法30(8)①イ~二)。裁判例には「帳簿」に記載されている課税仕入の相手方名が仮名であった事例の仕入税額控除を否定したものがあります。

[裁判例] 課税仕入れに係る適正かつ正確な消費税額を把握するため、換言すれば真に課税仕入れが存在するかどうかを確認するために、同条七項は、同条一項による仕入税額控除の適用要件として、当該課税期間の課税仕入れに係る帳簿等を保存することを要求している。…右のような法三〇条七項の趣旨及び令において帳簿の保存年限が税務当局において課税権限を行使しうる最長期限である七年間とされていること及び保存場所も納税地等に限られていることからすれば、法及び令は、課税仕入れに係る消費税額の調査、確認を行うための資料として帳簿等の保存を義務づけ、その保存を欠く課税仕入れに係る消費税額については仕入税額控除をしないこととしたものと解される。… 同条七項の趣旨からすれば、右記載は真実の記載であることが当然に要求されているというべきである。… すなわち,法は、仕入税額控除の要件として保存すべき法定帳簿には、課税仕入れの年月日、課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び支払対価の額とともに真実の仕入先の氏名又は名称を記載することを要求しているというべきである(東京地判 H09.02.28 控訴棄却 大阪高判 H25.04.11 確定)。

仮名の帳簿は許されず仮名の請求書等は許される、ということはないでしょう。上記の裁判例に従えば、請求書等の記載事項である作成者名も真実でなければ、仕入税額控除は適用されないことになります。この事件では、法人税については争いがなく、課税庁は課税仕入に相応する仕入額は損金算入を認めていたとみられます。課税庁は仕入の事実を認めながらも、法定事項を記載した帳簿を欠くという形式的理由のみで仕入税額控除を否認したようです。

消費税法においても、書類の作成者の住所は、請求書等の記載事項とは規定されていません。この点に関して、上記の裁判例は次のように判示しています。

[裁判例] 原告は、課税仕入れの真否を調査確認するためにその相手方の真実の氏名又は名称が記載要件とされているのであれば、住所の記載も要件とされるはずであると主張する。確かに,適切な課税及び徴税に納税者の協力が不可欠であることはいうまでもないが、適切な課税及び徴税に有効であるからといって不利益な効果を伴わせて納税者にどこまでの協力を義務づけるかは、当該課税の対象に係る取引の実情、納税者の負担、課税庁における人的、物的な調査能力、一般的に収集が可能と想定される資料の内容等といった諸事情を考慮して決すべき立法問題である。したがって、課税仕入れの相手方の氏名又は名称に加えて住所、所在地をも記載させることは記載事項の真否を確認する上で便宜であることは否めないが、それを欠くが故に、帳簿に記載された課税仕入れの相手方の氏名又は名称が真実であるかどうかを確認することができないというものではなく、取引に際して交付を受ける納品書、請求書、領収書等又は納税者の協力を得るなど他の方法によって記載の真実性を確認することも可能であり、法三〇条八項も、事業者に過大な事務負担を強いることがないようにとの見地から住所の記載を要件としなかったに過ぎないというべきである(東京地判平9.2.28 控訴棄却 大阪高判平25.4.11 確定)。

作成者の押印

作成者の押印については、請求書等の記載事項を法定している消費税法においても、何ら規定はありません。押印の有無は、当該書類の証拠力に関する問題です。

裁判実務では、ある書類(正確には文書であって例えば図や写真は含みません)から記載内容どおりの事実があるとの認定を受けるには、まず当該文書が作成者の意思や認識を表したものであることが前提であるとされ(形式的証拠力=文書成立の真正 / 民訴228(1))、この前提を充足して初めて裁判所は記載内容の証拠力を検討するものとされています(実質的証拠力=証拠価値)。民事訴訟法は、私文書に署名または押印があるときは真正に成立したものと推定しており(民訴228(4))、この推定(法律上の推定)が働けば、反証がないかぎり、当該文書に上記の形式的証拠力が付与されることになります。さらに、裁判実務では、上記の法律上の推定が働く前提として、署名または押印が本人の意思にもとづくことを必要としつつ、当該押印が「本人の印章」によってされたことが証明されたときは、当該押印は本人の意思にもとづくものと推定(事実上の推定)される、と扱われています(最判 S38.10.30 / 二段の推定)。

税務においては、上記の推定問題が争われた事例はみあたりません。課税庁が領収書の成立の真正を疑って(つまり領収書が偽造であると疑って)金銭支払の事実を否認することは、よくあるでしょう。しかし、民事訴訟の場面と異なり、税務(訴訟)の場面では、課税庁は質問検査権を行使して偽造を基礎づける証拠を積極的に収集しており、これが金銭支払の事実を否認する基礎になっているものと思料されます。領収書の偽造があれば重加算税の問題が生じるところ、その要件である「隠蔽または仮装」(通則法68)については課税庁に立証責任があるとされており(最判H18.01.18)、このことが課税庁が偽造を基礎づける証拠を積極的に収集する背景にあるのでしょう。