扶養控除等申告書の受領と記載内容

給与支払に伴う源泉所得税に関する事務のうち、扶養控除等申告書の受領とその記載内容について説明します。扶養控除等申告書は受給者が作成して税務署長に提出すべき書類ですが、その提出は給与支払者を経由して行うものとされています(所法194(1))。給与支払者を経由して提出するといっても、受給者から扶養控除等申告書を受領した給与支払者がその都度これを税務署長に現実の提供をするわけではありません。給与支払者は税務署長から提出を求められるまで、これを保存することになります。

受給者は扶養控除等申告書を提出しなければならない

受給者は扶養控除等申告書を提出しなければなりません(所法194(1)、地法45の3の2(1)、地法317の3の2(1))。

ただし、受給者が二以上の給与支払者から給与支払を受ける場合には、扶養控除等申告書の提出先は「主たる給与支払者」に限られます(所法194(1)括弧)。また、日雇労働者など税額表(日額)の丙欄の適用者は、扶養控除等申告書を提出する必要はありません(所法197②)。個人住民税に係る扶養控除等申告書も同様となります(地法45の3の2(1)、地法317の3の2(1))。

扶養控除等申告書は扶養親族がない受給者でも提出しなければならず(国税庁「平成29年分 源泉徴収のしかた」7頁 参照)、 その提出のない受給者には、税額表の乙欄が適用されて甲欄より高い税率により源泉所得税が徴収され、また年末調整も受けることができないという不利益が生じます。

主たる給与支払者

主たる給与支払者とは、扶養控除等申告書の提出を受けた給与支払者をいいます。ニ以上の給与支払者から給与の支払を受けている受給者は、いずれか一の給与支払者に扶養控除等申告を提出することになりますが、 いずれの給与支払者に提出するかは受給者の任意です(国税庁「平成29年版 源泉徴収のあらまし」82頁)。

提出時期と異動申告

扶養控除等申告書は税額表の甲欄を適用する要件ですから、その提出時期は「毎年最初に給与等の⽀払を受ける⽇の前⽇まで」とされています(所法194(1)、地法45の3の2(1)、地法317の3の2(1))。

また「その年の中途に扶養控除等申告書に記載した事項に異動を⽣じた場合」には異動申告が必要となります(所法194(2)、地法45の3の2(2)、地法317の3の2(2))。異動申告の時期は「異動を⽣じた⽇後最初に給与等の⽀払を受ける⽇の前⽇まで」です(各法同項)。所得税法および地方税法は異動申告書の提出を規定していますが、実務では、当初提出した扶養控除等申告書の記載を補正する方式も認められています(税務署配布用紙 平成29年分扶養控除等申告書の裏面「1申告についてのご注意(2)参照)。

給与支払者の受領と保存

扶養控除等申告書を受領した給与支払者は、税務署長が提出を提出を求めるまでの間、これを翌年1月10日から7年間保存しなければなりません(所規76の3)。

扶養控除等申告書の記載内容

扶養控除等申告書には、受給者の氏名その他所定の事項を記載しなければなりません(所法194(1)、所規73(1)、地法45の3の2(1)、地規2の3の3(1))。

個人番号(マイナンバー)

扶養控除等申告書には、受給者、控除対象配偶者および控除対象扶養親族の個人番号を記載しなければなりません(所法194(1)④⑤、所規73(1)①、地規2の3の3(1)① なお国通124(1)前)。ただし、次の場合にはその記載を省略することができます(国税庁FAQ)。

  1. 扶養控除等申告書に、受給者が「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨を記載し、給与支払者が「受給者の個人番号を確認した」旨を表示する場合(Q1-5-1)
  2. 給与支払者が受給者等の個人番号等を記載した一定の帳簿を備えている場合(Q1-3-1)

個人番号記載の省略については、次の記事にてご確認ください。

住所

扶養控除等申告書には受給者の住所を記載しなければなりません(所規73(1)①、地規2の3の3(1)① なお国通124(1)前)。税務署配布用紙には「住所又は居所」と印字されていますが、受給者が国内に住所を有するのであれば、この申告書に記載するのは居所ではなく住所です(所規73(1)①括弧)。住所とは「生活の本拠」をいいます(最判S29.10.20 民法22参照)。最高裁は「生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指す」としています(最判S35.03.22)。扶養控除等申告書に記載する住所が争点となった裁判例はみあたりません。税務で住所が争点となった裁判例の多くは、住所が国内にあるか否かという事件です(武富士事件など)。個人市町村民税の課税権の帰属主体について争われた事件はありましたが、訴えが取り下げられて判決に至ることなく訴訟は終了しています(元長野県知事住民票移転事件)。

一般論としては、住民票上の住所が「生活の本拠」である蓋然性が高いといえるでしょう。受給者が、家族と離れて赴任地で起居する単身赴任者である場合、あるいは親元を離れて修学地で起居する学生アルバイトである場合に、受給者の住民票上の住所が家族・親元の住所地に残されているときは、住民票上の住所と赴任地・修学地のいずれが「生活の本拠」かという判断に迫られます。いずれの例も個別事情の如何により判断すべきであって一概に論ずることはできませんが、単身赴任者の例では、住民票上の住所に家族が残って起居していること、赴任者の財産もその地に存すること、赴任者が定期的に帰省していること等の事情から、住民票上の住所が生活の本拠であると判断されやすいようです。他方、学生アルバイトの例では、単身赴任者の例と反対の事情から、修学地が生活の本拠であると判断されることが多いようです。

いつの時点での住所を扶養控除等申告書に記載するかについて、所得税法および地方税法は何ら規定していません。その作成(提出)時の住所を記載するのが条理といえるでしょう。住所に異動が生じた場合には異動申告書を提出することになりますが、異動申告書は「その年の中途に…異動を⽣じた場合」に提出するものですから(所法194(2)、地法45の3の2(2)、地法317の3の2(2))、翌年に住所に異動が生じても「その年」分の扶養控除等申告書には影響しません。しかし、翌年に住所の異動が生じた後に源泉徴収票を提出することとなる場合には、源泉徴収票も作成(提出)時の住所を記載するのが条理でしょうから、こちらの住所は異動後となるのが本来です(所規別表六(一)備考2(1))。もっとも、源泉徴収票の税務署配布用紙が給与支払報告書も兼ねた複写式であることから、この複写式の源泉徴収票には翌年1月1日現在の住所を記載するものとされています(国税庁「平成28年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」3頁)。このように、所得税法・地方税法上は、扶養控除等申告書の住所と源泉徴収票・給与支払報告書の住所が一致すべき根拠などなく、むしろ一致しないことがありえます。年末調整関係実務で両者の一致が求められることがあるとすれば、それは扶養控除等申告書の住所を源泉徴収票・給与支払報告書に自動転記するという電算処理上の要請でしょう。

扶養控除等申告書への押印

扶養控除等申告書には受給者の押印が必要です(国通124(2)④)。